旬感ブログ

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ブレス あの波の向こうへ

 “大人になる”ということを描いた作品だと思う。

「自分とは何者であるか」を否応なしに、突きつけられる、そんな瞬間を切り取った映画。

でも、とっくに大人になってしまった私たちが観ても物語に引き込まれてしまうのは、大人になったつもりの私たちも、「自分とは何者であるか」を毎日どこかで突きつけられているからだろうか。

それとも、いつかの自分をほろ苦く思い出すからだろうか。

私の場合は、前者かな。

 

この映画、特に理由もなく、水曜日の仕事帰りにふらっと観に行った。強いて言うなら、木曜のシネマ★イブ(BS日テレ 毎週木曜23:00~23:30)*1コトブキツカサさんが紹介していて少し気になったから。海、サーフィン、少年…と夏らしい爽やかな気持ちを味わいたかったから。

 

海、サーフィン、少年…。この映画を構成する要素として、そのどれにも嘘偽りはないものの、そのワードからは想像できないほど、画面にキラキラ感がなかった。例えるなら、確かに爽やかだけど、とてもビターな味わいという感じか。

それもそうだ、大人になった主人公が過去を振り返る形で物語が進むのだから。

大人になってから思う青春時代はなかなかキラキラしたものにはならない(笑)

 

前振りが長くなってしまったが、あらすじはこんな感じ。

オーストラリア西南部にある小さな町に暮らす内向的な性格のパイクレットは、怖いもの知らずな友人ルーニーの影響を受けながら、彼の後を追うように毎日を過ごしていた。そんな彼らはサンドーという男と出会い、サーフィンを教えてもらうようになる。パイクレットとルーニーは、不思議な魅力を放つサンドー、そして謎めいた存在感を持つ彼の妻イーヴァからさまざまな刺激を受けていく。いつしかサンドーは命にもかかわるような危険な波に2人を挑ませようとするが……。

ブレス あの波の向こうへ : 作品情報 - 映画.com

 

 

 “恐れ”

海への恐れ、死への恐れ、失うことへの恐れ…。

その恐れとの向き合い方を通して、主人公の少年は、自分の限界を知り、他者との圧倒的な違いを思い知る。その違いは、挫折のようにも感じられたが…。

大人になった今、それをどう感じるのか…そんな視点でこの物語は構成されている。

 

“不穏なBGM”

なんてことのないタイミングで、こちらを不安にさせるようなやや不穏な音楽が多用されていた。そのことにより、サイモン・ベイカー演じるサンドーが、少年たちにとって、良きメンターなのか、それとも…という緊張感が常にあった。

実際、パイクレットとルーニーにとって、サンドーとは何者だったんだろうか。

パイクレットにとっては、自分にはない要素を持っているからこそ、魅力的であり、恐れを感じる存在。

ルーニーにとっては、憧れであるとともに、彼を更なるスリルへと駆り立たせるガソリンのような存在。

だったのかな。

そして、サンドーからは、彼らを“育てたい“という意識が私には全く感じられなかった。それは不気味なほどに。

 

“それでも大切な友達だったから”

…内容的などんでん返しは、全くないのだけど、最後の最後、この一言が、それまで、淡々と観ていた私の心を一変させた。突如、心がざわざわと動き出し、エンドロール中、なぜだか少し涙目になった。

ノイズのように心が動くので、それを落ち着かせるために、珍しくパンフレットを購入した。

 

しかし、こうしてブログに感想を書けるのは、パンフレット内にある鍵和田啓介氏のエッセイを読み、なんとなく、自分の中で腑に落ちた部分があったからかもしれない。

パンフレット内のコメントなので、詳細は控えるが、鍵和田啓介氏のエッセイの中で、パイクレットにとって3人(ルーニー、サンドー、その妻のイヴァン)は、スリルを希求する死神だったと表現されている。そして、パイクレットは、従来の青春映画の主人公にありがちなクールな死に様は求めずに、愚直に生き長らえること志向する新たなタイプの主人公だと。

 

うーん。味わい深い。多くの人は、青春時代にスリルを求めつつも、それこそパイクレットのように、それを求め続けることはできず、結局、生き長らえる道を選ぶ。

だから、この映画には、平凡な青春映画に留まらない普遍的なものがぽたぽたと落ちているのかも。

 

「それでも大切な友達だったから」

君と僕は別人であり、知れば知るほど別の人間だと突きつけられていく。僕らが違うことなんて、最初からわかっていたんだ。それでも一緒に過ごした時間はかけがえのないものだし、大切に思っている気持ちは変わらない。

 

こういう気持ちって、いくつになってもそういうものなのかもしれない。

そんな大切な友人への思い触れ、思わず感情が溢れたのかな。

 

ルーニーの視線”

ルーニーもまた、パイクレットを大切な友人だと思っていた。おそらくパイクレットがそう思っている以上に。

個人的には、ルーニーが、パイクレットを見つめる視線がとても印象に残っている。

一緒にやろうってパイクレットを呼び込むその視線。

初めて大きな波に乗るパイクレットを、遠くから複雑な表情で見つめる視線。

サンドーとの二人旅から戻った後に見せたパイクレットを見つめる視線。

 

この映画の主人公はパイクレットだけど、友人だからこそ感じる嫉妬とか自分との違いとか、ルーニーもまた様々な感情を抱え、そこに生きていた。

 

っていうか、この映画、ルーニーのキャラクターが魅力的過ぎるんだな~

好奇心旺盛で、負けず嫌い、愛嬌があって、でもどこか寂し気で危なっかしい。

もっと彼を見たかった‼という感想を持つ人は意外と多いのでは??

 

 

…それにしても今作が初演技の主役を演じた二人(パイクレット役のサムソン・コールター、ルーニー役のベン・スペンス)は本当に良かった。

その演技を引き出したという意味で、サイモン・ベイカー天才かよと。

そして、映像の端々から、海や原作*2へのリスペクトを感じ、“メンタリストの人”という印象だったが、好感度が一気に上がった。

 


サイモン・ベイカー インタビュー 映画『ブレス あの波の向こうへ』

 

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*1:映画愛溢れるハリー杉山とコトブキツカサの掛け合いが楽しく、おすすめです。

*2:読んでないけど、なんとなく空気感とか大切にしたのかなっていう。オーストラリアではとても有名な物語のようだし